01:目覚めろ、その魂


それは突然の出来事だった。
少年と少女が公園で遊んでいると、公園のベンチに座っている少女の父親が突然苦しみ出した。
心配した少女の母親が彼に触れた途端、彼女は糸のようなもので拘束され……そして爆発した。
その光景を見て泣き叫ぶ少女と父親。少年は、そんな2人を呆然と見るしかできなかった……。

 

 

 

 

 

それから10年以上の月日が流れ、少年は青年へと成長し、少年時代の記憶は薄れつつあった。
彼の名は火神正一(かがみまさかず)。風の街・風都にあるアパートで1人暮らしをしている。

火神正一
「風都を出る?」

電話の声
《うん、仕事の都合でね》

電話の声の主は火神隆二(かがみりゅうじ)。正一の双子の弟であり、来月に結婚することになっている。

火神正一
「そうか……ま、仕事の都合じゃ仕方ないわな」

火神隆二
《兄さんは……就職はどうするのさ?》

その言葉に、正一は露骨に嫌そうな顔になった。正一にとって、「就職」という言葉はNGワードとなっている。

火神正一
「あー……その話はしないでくれ。耳が痛くなる」

火神隆二
《でも、いつまでもアルバイトってわけにもいかないだろう?》

火神正一
「そう言われてもな……今のバイト、割と気に入ってるから辞められないんだよな」

正一がそう言うと、隆二は呆れたように苦笑する。

火神隆二
《あ、あはは……でも、そろそろ真剣に考えた方がいいよ? 大学の奨学金のことだってあるし……》

火神正一
「奨学金のことは心配ないさ。バイトの給料が上がったから生活も少し楽になってきたしな。だから気にすんなって」

火神隆二
《いや、でも……》

尚も話を続けようとする隆二に、正一はつい苛立ってしまう。

火神正一
「あ~もう、だからイチイチ気にすんじゃねぇっての! それより自分の心配をしたらどうなんだ!? 来月結婚すんだろ!?」

火神隆二
《ちょ、ちょっと!? 強引に話を変えないでよ!》

火神正一
「今、結婚式やら引っ越しやらの準備で忙しいんだろ!? だったらオレの心配してないでそっちに集中しろよ! じゃあな!」

そう言って、乱暴に電話を切る正一。少しして冷静になった正一は、やりすぎてしまったことを後悔する。

火神正一
「ハァ……双子なのにどうしてこうも違ってしまったんだろうな……」

立派に仕事を持ち、結婚も決まっている隆二。大学を卒業した今も就職活動せずにアルバイトを続け、未だ恋人もいない正一。
仕事においても恋愛においても上手くいっている双子の弟に、正一はいつしかコンプレックスを抱くようになっていた。

火神正一
「……今日はバイトもないし、テキトーに走っていくか……」

暗くなった気分を払拭しようと、正一はバイクに乗って出かけていった。

 

 

 

 

 

面影堂。
輪島繁(わじましげる)が経営する古い骨董品屋で、操真晴人(そうまはると)はここに居候させてもらっている。
その面影堂に1人の女性が訪れた。彼女の名は大門凛子(だいもんりんこ)。警視庁国家安全局0課の刑事である。
彼女は以前、命の危機に瀕したところを晴人に助けられ、以降は面影堂に出入りするようになる。

大門凛子
「こんにちは、輪島さん」

輪島繁
「おぉ、凛子ちゃん。いらっしゃい」

大門凛子
「晴人くん、います?」

輪島繁
「晴人なら今、上にいる。……ひょっとして、デートの誘いかい? いやはや、若いねぇ……」

大門凛子
「ち、違います!」

顔を真っ赤にして怒る凛子。輪島は笑いながら謝ると、2階にいる晴人を呼んだ。

輪島繁
「おーい、晴人! 凛子ちゃんが来たぞー!」

それから少しして、2階から晴人が降りてきた。

操真晴人
「よっ、凛子ちゃん。デートの誘い?」

大門凛子
「ちょっ! ……もう、晴人くんまで……」

輪島と同じことを言う晴人に呆れる凛子。

大門凛子
「もういい。晴人くんのために買っといたプレーンシュガーは私が食べる」

操真晴人
「ゴメン、凛子ちゃん。この通り」

プレーンシュガーと聞いて即座に謝る晴人にますます呆れる凛子。そんな2人のやり取りを、輪島は微笑ましく見ていた。

 

 

 

 

 

ドーナツを食べ終えたところで、凛子は本題に入った。

大門凛子
「実は晴人くんと一緒に調べたいことがあるの」

凛子の顔が凛々しい刑事のものに戻り、それを見て察した晴人も真剣な表情になる。

操真晴人
「……ファントム絡みの事件か?」

ファントム。
ゲートと呼ばれる魔力を秘めた人間が絶望することで生み出される怪物であり、そして晴人の倒すべき敵である。
ファントムが現れたのは数年前、笛木奏(ふえきそう)がサバトという禁断の儀式を行ったのがきっかけだった。
笛木は不治の病で失ってしまった一人娘・暦(こよみ)を蘇らせるため、多くのゲートを集めてサバトを行った。
その結果、サバトの生け贄となったゲートたちが強制的に絶望させられたことでファントムが大勢生み出された。
笛木はファントムに裏切られる形で命を落としたが、サバトで生まれたファントムたちはまだ各地に潜んでいる。
晴人はファントムの残党を一掃するために、0課の協力の下、仮面ライダーウィザードとなって日々戦っている。
今回もその件についての話だろうと晴人は思っていた。しかし、凛子の返答は少し意外なものだった。

大門凛子
「それは……まだ分からない。けど、普通の人間ができる芸当じゃないってことは確かよ」

そう言って、凛子は数枚の写真を取り出した。どの写真にも、片腕以外の身体が木の中に埋め込まれている死体が写っていた。

操真晴人
「これは……」

さすがの晴人も、これには驚愕を隠せなかった。

大門凛子
「最初の被害者は、都内に住む中学生の宇和木信彦(うわきのぶひこ)くん。2人目は、父親の邦夫(くにお)さん。
 そして3人目は、母親の安江(やすえ)さん」

操真晴人
「! 家族全員殺されたってのか……?」

大門凛子
「ええ……宇和木家だけでなく、他の一家も1人ずつ全員殺されているわ。どれも同じ手口でね」

操真晴人
「………………」

凛子の話を聞くにつれ、晴人の表情が険しくなっていく。

大門凛子
「正直なところ、警察もお手上げ状態なのよね……被害者の共通点は何も見出せなかったし、手口も人間とは思えないものだし」

操真晴人
「なるほど、それで俺に協力を求めてきたってわけか」

大門凛子
「うん……それで、どう? 何か分かった?」

操真晴人
「いや……仮にファントムがやったとしても、こんな殺し方をする理由が分からない。
 ファントムにも愉快犯みたいなヤツがいるのなら話は別だけどな」

大門凛子
「そう……ゴメンね、晴人くん。まだファントムが関わっているかどうかも分からないのに、こんなこと頼んじゃって……」

操真晴人
「気にすんなって。たとえファントムの仕業じゃないとしても、俺の力が必要になるかもしれないからな。
 この事件が普通じゃないってことくらい俺にも分かる」

その時、晴人は何かを思いついたように1枚の写真を手に取った。

操真晴人
「なぁ、凛子ちゃん。この写真に写ってる子が最後の被害者なんだよな?」

大門凛子
「ええ、そうよ。高校生の藁居美奈子(わらいみなこ)ちゃん。その子がどうかしたの?」

操真晴人
「その子の家族は? まだ殺されてないか?」

大門凛子
「藁居家の中で殺されたのは今のところその子だけよ」

操真晴人
「そうか……なら、その子の家族の警護を俺にやらせてくれないか?」

大門凛子
「え……でも、次に誰が狙われるのか分からないのよ? 晴人くん1人じゃ無理よ」

操真晴人
「俺1人じゃ無理でも、仁藤や真由ちゃんたちがいる。5人もいれば全員の警護はできるだろ?」

ファントムと戦える力を持つ魔法使いは晴人を含めて5人いる。
仮面ライダービーストに変身する仁藤攻介(にとうこうすけ)。
仮面ライダーメイジに変身する稲森真由(いなもりまゆ)、飯島譲(いいじまゆずる)、山本昌宏(やまもとあきひろ)。
彼らも人々を守るために0課に協力している。……仁藤は「気が向いたら」というスタンスであるが。

大門凛子
「えと、その……非常に言いにくいんだけど……」

しかし、何故か気まずそうな顔をする凛子。そして、凛子の口からとんでもない一言が放たれた。

大門凛子
「藁居家は美奈子ちゃんを除いても7人いるのよ」

操真晴人
「………………へ?」

藁居家の人数の多さに呆気に取られる晴人。それに同調するかのように、時計の音が虚しく鳴り響いた。

 

 

 

 

 

風都。
正一はバイクを走り続けていた。何かをするわけでもなく、ただひたすらと。

火神正一
「………………」

人気のない場所でバイクを走っていると無心になれて嫌なことを忘れられる。正一は気分が暗くなる度にそれをやっていた。

火神正一
「………………ッ!?」

しかし、今回はいつもと違っていた。

火神正一
「うっ! ぐ……ああああああっ……!!」

突如、頭痛に苦しみ出す正一。あまりの痛みに正一は思わず両手で頭を押さえてしまい、バランスを崩して転倒してしまう。

火神正一
「ハァ……ハァ……うっ! ぐうううっ……!!」

幸いにも軽い擦り傷だけで済んだが、頭痛は尚も治まらない。――――その時だった。

???
「ハァァァァァァ……」

建物の陰から異形の怪人が現れた。銀色のウミガメに似た姿をしたその怪人は、トータスロードのテストゥード・オケアヌス。
彼は右手の甲に左手で何らかのサインを切るような仕草をし、そして正一に近づいていく。

火神正一
「バ、バケモノ……!? うっ!」

目の前に現れた怪人に恐怖を感じた正一はその場から逃げようとするも、頭痛のせいで上手く動けずにいる。
テストゥード・オケアヌスは正一の頭を掴み、軽々と持ち上げた。

火神正一
「は、放せ……! 放しやがれ……!」

必死に抵抗する正一。だが、テストゥード・オケアヌスは無情にも放り投げる形で手を放した。

火神正一
「うわああああああ!!」

放り投げられた正一は建物の壁に叩きつけられ、そのまま倒れてしまう。

火神正一
「がはっ! あ……がっ……!」

……オレは死ぬのか……?
そう頭をよぎった瞬間、正一は死にたくないという思いが沸々と湧き上がってきた。

火神正一
「こんな……ワケの分からないことで……死んでたまるかよ……!」

正一は痛む身体を叱咤して立ち上がった。

火神正一
「死んで……たまるかああああああ!!!」

そう叫んだ瞬間、正一の腹部から眩い光が放たれ、正一の全身を包み込んだ。光が収まると、正一は全く別の姿になっていた。

テストゥード・オケアヌス
「! アギト……!」

アギト。
変身を遂げた正一の姿を見て、テストゥード・オケアヌスはそう呟いた。
仮面ライダーアギトとなった正一の戦いが、今ここに始まったのである。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED……



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