01:台風


20XX年1月30日 午前7時22分 マリオの家

キノコタウン付近にある一軒家。そこにはマリオとルイージが住んでいた。

マリオ
「ふわぁ~あ……ここんところ平和すぎて暇だなぁ……」

平和な日々に暇を持て余しており、退屈そうにあくびをするマリオ。

ルイージ
「まぁまぁ、平和で何よりじゃないか、兄さん。……確かに暇だけどさ」

平和で何よりとか言いつつも、内心では何か刺激的なことが起きないかなと思っているルイージ。

マリオ
「とはいえ、やることもないしなぁ……」

ルイージ
「……じゃあ、テレビでも見る?」

マリオ
「……そうしようか。つけといて」

ルイージ
「はいはい。ポチッとな」

言われるままに、ルイージはテレビの電源を入れる。画面には天気予報が映っており、ちょうど始まるところだった。

気象予報士
《昨日発生した大型低気圧ですが、明日には台風並みに発達する見込みで、
 特にキノコ王国では雪を伴って猛烈な風の吹く所があるでしょう。
 予想される最大瞬間風速は50メートルで、走行中のトラックが横転したり、
 街灯でも倒れるものが出てくるほどの非常に強い風です。
 屋外での行動は極めて危険ですので、外出はできるだけ控えた方が良いでしょう》

マリオ
「へー、明日には台風並みの風が吹くんだー……って、ええええええ!!?」

ルイージ
「街灯でも倒れるものが出てくるほどだって。相当な強さなんだね……」

マリオ
「呑気なこと言ってる場合じゃないぞ、ルイージ! 今すぐ家を補強しよう!」

ルイージ
「えっ!? 補強する必要あるの!?」

マリオ
「実はこの家、だいぶガタが来ているんだ……だから、台風並みの風なんか来たらあっという間にふっ飛んでしまうんだよ!」

ルイージ
「あー、道理で隙間風がヒドいわけだ……って、それヤバいじゃん!」

マリオ
「そう。だから急いで補強しないと!」

ルイージ
「でも、補強に使う道具なんてあったかなぁ……この時期に台風が来るなんて思わなかったから全然用意してないし……」

マリオ
「ん? 木の板とか釘とかぐらいあるだろう?」

ルイージ
「えっと……確か、あったと思うけど……」

マリオ
「よし、じゃあ今すぐ持ってきてくれ! ボクはその間にハンマーを用意してくる!」

ルイージ
「分かった!」

補強作業をすべく、木の板と釘を取りに行ったルイージ。――――しかし、数分経ってもルイージは戻ってこない。

マリオ
「ルイージのヤツ、何をやっているんだろう……? そんなに時間がかかることじゃないだろうに……」

その時、ようやくルイージが戻ってきた。……大量の木の板を抱えながら。

ルイージ
「ゼェ……ゼェ……木の板……1000000枚と……釘……10000000本……も、持ってきたよ……!」

マリオ
「多っ!! 何でそんなにあるんだ!?」

ルイージ
「ふぅ……ボクもこの量にはビックリしたよ。でも、これだけあれば何とかなるんじゃない?」

マリオ
「……そうだね。時間もないし、これで何とかしよう!」

こうして、マリオとルイージの決死の補強作業が始まった。

 

 

 

 

 

20XX年1月30日 午前10時28分 マリオの家

コンッ! コンッ! コンッ!

マリオ
「………………」

一心不乱に作業を続けるマリオ。

コンッ! コンッ! コンッ!

ルイージ
「………………ハァ……ハァ~……ハァックシュン!! うぅ……寒い……」

寒さに震えながら作業を続けるルイージ。

コンッ! コンッ! コンッ!

マリオ
「………………あ、釘が切れた。ルイージ、釘を」

ルイージ
「はい」

マリオはルイージから数本の釘を受け取り、作業を再開する。――――その時だった。

ゴツッ!

マリオ
「うがああああああ!!!」

ルイージ
「どうしたんだ兄さーん!!」

マリオ
「ゆ、指が……指がぁ……!」

マリオは誤って指を叩いてしまい、指が大きく腫れていた。

ルイージ
「……兄さん、ちゃんと釘を狙って打たないとダメだよ」

マリオ
「うぅ……寒さで余計痛む……」

ルイージ
「ここじゃ冷えるし、一旦中に入ろう。救急箱を持ってくるから、兄さんは休んでなよ」

マリオ
「わ、分かった……」

ルイージに言われ、家の中に入って近くのイスに座るマリオ。少しして、ルイージが救急箱を持って戻ってきた。

ルイージ
「兄さん、救急箱を持ってきたけど、使うのはこの湿布薬だよね?」

マリオ
「うん、それ」

ルイージ
「じゃ、貼ってあげるからじっとしててね」

ルイージは湿布薬をマリオの指に慎重に貼り付けた。

マリオ
「……ッ……サンキュー、ルイージ。よし、早く続きを――――」

ルイージ
「ダメだよ、しばらく安静にしておかないと。後はボク1人でやるから」

マリオ
「え? ……いや、でも、さすがにそれは……」

ルイージ
「良いから良いから。休憩だと思えば良いんだよ。だから大人しくしていてね」

そう言って、ルイージは1人外に出て作業を再開した。

マリオ
「ルイージ……オマエは本当に良いヤツだよ……」

誰もいない家の中でポツリとそう呟くマリオであった。

 

 

 

 

 

20XX年1月31日 午前1時52分 ダイヤモンドシティ郊外

ヒュウウウ……バチッ! バチバチッ! バァン! バチバチバチバチバチバチッ!

突如、誰もいない郊外の廃屋に電磁波が発生し、その中心から黒い球体が出現した。そして……。

バシュッ!! シュ――――……

黒い球体が弾け飛ぶと、中から跪くような姿勢でしゃがみ込んでいる者が現れた。

???
「………………」

彼(?)はゆっくりと立ち上がりながら周囲を見回した後、無言でその場を立ち去った……。

 

 

 

 

 

20XX年2月1日 午前7時14分 マリオの家

ルイージ
「まだ風は強いけど、外に出ても問題ない程度には弱まってきたよ」

新聞を取りに行ったルイージが戻ってくるなりそう報告した。

マリオ
「そうか。昨日はスゴかったからなぁ……この家もよく持ち堪えたもんだよ」

ルイージ
「そうだね。ミシミシと音を立てた時はハラハラしたよ」

ルイージは手に持っている新聞を広げ、それを読み始めた。

ルイージ
「……あれ? この記事、ワリオとワルイージのことが書かれてる」

マリオ
「ワリオとワルイージだって? どんな記事なんだい?」

ルイージ
「読んでみるね。えーと……」

ルイージはワリオとワルイージのことが書かれている記事を読んでみた。

新聞記事
『1月31日の午前3時半頃、ワリオ氏とワルイージ氏が何者かに襲われ、全治2ヶ月の重傷を負うという事件が発生した。
 彼らの他にも、リップルタウン付近にある沈没船に出没するニセマリオ氏、遊びでマリオ氏に化けていたランペル氏など、
 マリオ氏に似ている、あるいはそっくりに化けた人たちが襲われる事件が昨日から立て続けに起きている。
 被害者は全員口を揃えて「全身銀色のマリオにそっくりなヤツにやられた」と証言しており、
 キノコ警察はマリオ氏の犯行の可能性も含めて捜査を行っている』

マリオ
「おいおい……ボクにそっくりなヤツがボクに似たヤツを襲っているって、いったい何の冗談なんだい……?」

ルイージ
「怖いなぁ……この流れで行くと、ボクも襲われることになりそうなんだけど……」

マリオ
「しかも、警察はボクも疑っているだって? その割には、昨日は警察の聞き込みなんてなかったけどなぁ……」

ルイージ
「昨日は台風が来ていたから聞き込みは困難だと判断したんじゃないの? 天気予報でも外出は控えた方が良いって言ってたし」

マリオ
「あ、そうか。……となると、今日辺りに聞き込みに来るのかな?」

ルイージ
「風も弱まってきているし、多分そうだろうね。……それにしても、いったい何者なんだろう?
 全身銀色の兄さんにそっくりなヤツって……」

マリオ
「それに、目的もよく分からないなぁ。ボクに似ている、あるいはそっくりに化けたヤツを襲っているだなんて……」

ルイージ
「……案外、本物の兄さんが狙いだったりして」

マリオ
「や、やめてくれよ、そういう不吉なこと言うのは」

ルイージ
「とにかく、警察が来たら詳しい話を聞いてみようよ。ボクたち、事件のこと何にも知らないし」

マリオ
「そうだね。今はとりあえず家で大人しくしておこう。犯人の狙いが本当にボクだとしたら尚更だ」

ルイージ
「うん」

マリオとルイージはしばらく外出を控えることを決め、まずは朝食を済ませることにした。
――――この数時間後、人類の未来を懸けた戦いが始まることを2人はまだ知らない……。

 

 

 

 

 

20XX年2月1日 午前11時10分 ポカポカロード

ビュオオオオオオ……

季節外れの台風は昨日のうちに過ぎ去ったものの、未だ強風が吹き荒れるキノコ王国。
そんな中、1人のキノピオが雪道と化したポカポカロードで雪かきをしていた。

キノピオ
「ふぅ……まさかポカポカロードに雪が積もるなんて……季節外れの台風といい、こんなことは初めてです……」

誰もいない雪道でポツリとそう呟くキノピオ。――――その時だった。

バチッ! バチバチッ!

キノピオ
「ん? 何でしょうか、今のは……?」

バァン! バチバチバチバチバチバチッ!

キノピオ
「うわわわっ!?」

突如、何もない上空に電磁波が発生し、その中心から黒い球体が出現した。そして……。

バシュッ!! ドサッ!

黒い球体が弾け飛ぶと、中から1人の女性が現れ、地面に落ちた。

女性
「う……ぐっ……つ、着いたのかしら……?」

女性はゆっくりと立ち上がりながら周囲を見回すと、目の前の出来事に愕然としているキノピオに気づいた。

女性
「ねぇ! 今日は何日!? 何年よ!?」

女性はすぐさまキノピオに駆け寄り、問い詰めた。鬼気迫る表情と強い口調の女性にキノピオはたじろいでしまう。

キノピオ
「え? え? あ、あの――――」

女性
「答えて!!」

キノピオ
「え、えっと……に、20XX年2月1日、ですけど……」

女性
「2月1日ですって!? 1月31日じゃなくて!?」

キノピオ
「は、はい……」

女性
「何てこと……!」

女性は今日が2月1日であることにショックを受けていた。

女性
「設定した日付より1日ズレているだなんて……早くあの人に会わないと……!」

そう言って、女性はキノコタウンの方角に向かって駆け出した。後に残されたキノピオはただただ混乱するばかりだった。

キノピオ
「な、何だったんでしょうか、今のは……」

そして、女性を一目見た時からずっと気になっていたことをようやく口にした。

キノピオ
「雰囲気は全然違いますけど……ピーチ姫に似ていましたね……」

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED……



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